小沢が出会ったのは、最近よく聞かれる発達障害の子供を教育してきた実績を積み重ねてきた、「エジソン・アインシュタインスクール協会」の代表理事・鈴木昭平。鈴木は「子供たちを指導するには、自分の心、マインドをコントロールできるようにすること。そのために指導する側の人間も自分のマインドを感じ取り、コントロールできるようにしていくことが大切だ」と語る。小沢が鈴木から伝授された、そのマインドの作り方とは?
(本文敬称略)
暗示
- 小沢マインドの作り方とは、具体的にどのように行うんですか?
- 鈴木それは脳に効率的に回路を作ることです。私たちは暗示という形でやっております。この暗示がものすごく効くんですよ。素直であればあるほど、小さければ小さいほど。大きくなってしまうと、歪んでるからなかなか暗示が効かないんです。だから、やっぱり少年期がいいんです。そういう意味では、空手の少年部の問題を改善するには、ぜひ皆さんに知ってもらいたい。
- 小沢青年期の進路選びは、暗示が元になっていますからね。何となく見たものが、暗示のようになります。『フォレストガンプ』みたいな映画は、明らかにお母さんの影響が暗示としてなっているシーンがありますが、多分大概の人がそうなんでしょう。
- 鈴木脳にどんな情報をインプットするか、それにどれほど強く動かされるかで決まるわけですよ。仕組みは難しくありません。それを実行するかどうかが大事なんです。実行する親を育てなきゃいけない。子供さんばかり集めるのではなくて、お父さん、お母さんを集めて指導する。そういう別コースも作って一体化して行う。家庭での取り組みと、道場の取り組みを連携すれば、うまくいくでしょう。
- 小沢そうですよね。そんなこともできないか、と考えてはいました。それが、鈴木先生とご面識を得ることになった理由の一つでもあったんです。人間は、他の動物と比べると生育が長くかかる。というのは、脳を大きくするというのが生き残りの手段だったからです。だから生育の過程に関わるお母さんとの関係が不安定だと、めちゃめちゃ響くんですね。
- 鈴木その通りです。何しろ、お腹の中で280日育てられているんですから。お母さんの血液で育ち、胎内でお母さんの心臓音を聞いています。生まれてからも1年間はおっぱいで育つんですよ。人生のスタートの時にお母さんに一宿一飯の恩義を感じているので、子供はお母さんの影響をものすごく受ける。残念ですが、お父さんにはあんまり影響を受けないんです(笑)。
軍隊教育はストレス教育
交流するようになった小沢、鈴木の二人でジョイント講演もするように。
- ――先ほど、昔の教育に関しては軍隊教育が中心となっているとお話しがありましたが。
- 鈴木そうなんです。だから、小さい時にお父さん中心の教育をやると、軍隊形式でストレスの教育になりやすいんです。私たちもストレス教育で育ってきました。ストレスに打ち勝ってきた人間しか評価されてません。だから人格的に歪んでいる部分も出てきているわけです。品格も低かったりしますね。私はそこを、しっかりと作り直すことが大事だと思うんです。それをやるのはお母さんです。お父さんの仕事は、お母さんの笑顔を増やすことなんです。それに徹していただければね、子供さんは伸びます。変わりますよ。
- 小沢ウチにも、軍隊教育を受けて歪んじゃったんじゃないか、と思わせる生徒が…(笑)。
- ――武道の道場での指導方法も、元を正せば軍隊教育だと思うのですが。
- 小沢どうなんでしょう。自分は、本来の武術の教育というのはマニュファクチャーみたいなものだと思っています。技術の伝達というのは、本来マニュファクチャーで、一人の弟子を育てるものだと思うんです。大勢の人間を育てるのには向かないので、効率上そうなっちゃんたんだろうなと考えています。
- 鈴木私の感想ですが、小沢先生は違いますね。昔の軍隊意識、兵隊さんを強くするストレス教育の延長線上の部分があるかもしれませんが、脳の仕組みを取り入れて合理的にトライしようとしている。これはものすごく新しいやり方で、正しいと思います。人間は脳で生きてますから、武道も脳で体を動かしていると思うんです。そこに焦点を当てているので、全く新しい方向性だと思います。
私がやっているのも同じことです。脳に着目した教育を実践しているんです。ここも共通しているところです。小沢先生とは同類じゃないかな、と勝手に思っているんです。
禅道会の指導実績
講演をする小沢。会場内は多数の参加者が集まっていて、関心の高さがうかがえる。
- ――小沢先生は、パニック障害になった元全日本チャンピオンで体調を崩してしまった選手を、長野県の環境でケアされて改善されたそうですが。
- 小沢懸垂が一回もできない状態にまで追い込まれる、パニック障害という病気だったんです。復帰して全日本チャンピオンに返り咲きましたが。
- ――鈴木先生も行かれたそうなのでわかると思いますが、ああいう自然環境に恵まれた所で心も良くなるというのはどう思われますか。
- 鈴木ところが、小沢先生にお会いしに行って電話したら、「今歩いてるから、どこどこで会おう」とおっしゃるんです。私たちは車で移動していて、先生は歩いているわけですよ。しかも1km、2kmじゃない、30kmですよ。本当に目を丸くしました。普通じゃない、異常です(笑)。山の中で遭難しているみたいで、あれを付き合わされてる生徒さんたちは大変だ(笑)。
- 小沢他人と一緒じゃないと歩けないと思うんです。「一緒に歩けたんだ」という感情や、自己受容感が芽生える。強く認知しているわけじゃないのですが、他人に対する感謝の気持ちがモワーっと広がってくというんですかね。その後、美味しい食事とお酒にもありつけますし(笑)。その時は成人の女の子と一緒だったのですが、寮の門限を破ったということもありまして、「一緒に歩くぞ!!」と言って歩かせたんです。5kmくらい歩くと「今何kmくらい歩きましたか?」と気弱なことを言い出しました。「先のことを考えるんじゃない、今に集中しろ!!」と言いながら歩き続けました。先ほどの話でもあった、自信と我慢ができたんでしょう。
- 鈴木体験を積み重ねていくところに、大きなポイントがあるんです。実際に体を動かして、実績を積み重ねている間に自信を感じる。実践しているとそういうチャンスが、たくさん出てきます。それを、信頼している人から力づけられたり、褒められたりすると、さらに伸びてくるんですよ。
それと、やっぱり人間ですから血液が大事なんですね。体を維持しているのは血液ですから。その血液の質を上げるのは、食事と睡眠なんですね。それを家庭でお父さんとお母さんが、特にお母さんがその辺りを配慮してくれれば、短時間の間にお子さんの行動は変わるはずなんです。食育ですね。
体育、食育、知育
発達障害だけではなく、ダウン症の子の教育実績もある鈴木。その事例に関することを著した多数の書籍を出している。
- ――武道教育で体育を行いながら、食育も加えるわけですね。
- 鈴木そこに知育も入ります。我々は、短時間に超高速で学ぶ方法も指導しています。どの家庭でも短時間でいいんです。1日30分で、十分に高校受験のレベルが達成できます。実際にダウン症の女の子が、県立高校に進学し大学に合格しているんですよ。ダウン症のお子さんが普通クラスにどんどん入ってくようになっています。支援学級に入っていた子が1~2年で普通学級に移って、100点満点を取り始めたんです。そういうことがたくさん起きる。発達障害児は元々敏感です。それは優秀だという証拠です。
- 小沢これは全くの推測なんですけども、感性が優れている子なので、無意識優位の状態にしておいてゆっくり見せると、考えて考えて、意識を使ってしまうんでしょうね。潜在意識の中にポンポンポンポンと落とし込んでいく学習法だと、推測するんです。でも、その子たちは感性やイメージ力が高いので、ストンストンストンとイメージの脳の方へ入れ込んでいけるんだろうなと感じています。天才の卵という意味も含めて、そういうやり方の方が効果的なんだろうな、と。
- 鈴木そのお子さんが集中するのに適切なスピードがあります。人によってスピードが違うんです。本来、それが一番わかるのが親なんです。その適切なスピードで正しい知識を入れると、判断が正しくなって自信がついてくるんです。今までは、それが上手くできなかったんですよ。入力のスピードが自分に合わなかった。だから嫌になっちゃう。学校の授業のやり方じゃダメなんです。
- 小沢武道のマインドフルネスみたいな「現在に集中する」という観念と結びついて、セットにするとすごい学習法になったりするのかなと期待しています。
- 鈴木ですから、空手に知育も食育も体育も、そして徳育も入れて欲しいんです。特に、徳育をしっかり教えて欲しい。肉体と精神を修養した上で、人の役に立つ、という意識を植えてもらう。そして未来社会を担うリーダーに育ってもらいたい、と私は思うんです。
- 小沢空手道場というのは学力を上げるという使命を負ってなくて、どちらかというとストレス耐性の方というイメージがあったと思うんですが。上手く脳というものを理解していけば、実はボーっとしてる時にこそ、脳は発火するんです。ボーっとしている、つまり潜在意識優位な状態。武道をやると、そういう状態を作るのも長けてくる。だから、その状態の時に学習して成績を上げる。そういった道場のあり方も、今後は求められるのではないですかね。全員が選手になるわけではないですから。
考えてみると、いくら空手が強くても、成績の方がダメだと言われ続けて生きていっては、自己肯定力が下がっちゃいますしね。「学力ぐらいのこと」と言ってしまえばおかしいんですけど、それしきのことでどんどんダメ出しをされてダメな人間だと思ってしまうと、大人になってもなかなかうまいこと回らないでしょうしね。
<次号に続く>