フルコンタクトKARATEマガジン vol.9 2016年12月号

禅の道歩みてまれびとに遭う 第1回

禅の道歩みてまれびとに遭う 第1回

小沢隆は悩んでいた。近年、少年部の稽古に情緒不安定な生徒が目立つようになった、と聞かされている。人の話に耳を傾けられず、同じ姿勢をわずかな時間取り続けることもできない。原因は、発達障害であるという。本人が指導を受けられる状態にないことはもちろん、周囲の生徒の支障にもなりかねない。かといって、安易に放逐するわけにもいかない。どうしたものか…しかし、そこは求めれば与えられるもの。小沢の耳に発達障害の児童を教育することに抜群に長けている人がいる、という話が入ってきた。その人が今回のゲスト、「エジソン・アインシュタインスクール協会」の代表理事・鈴木昭平である。小沢はさっそく話をする機会を設け、自信の悩みをぶつけてみた。
(本文敬称略)

空手道場における発達障害児に対する指導

――お二人の出会いのお話しから聞かせていただけますか?
小沢私たち、空手道禅道会では武道の教育を根幹とした、自立支援学園のディヤーナ国際学園を運営しております。その関係もあり、全国的に年々発達障害の子供が増えているという現状を見聞きしており、股さらに私たち学園へのご相談件数も増えております。そこで、当学園の特別名誉教育顧問をしていただいております、某有名医療大学の心理学博士、T教授のご紹介で、発達障害に対して素晴らしいメソッドをお持ちの先生がいらっしゃるということで、一般社団法人エジソン・アインシュタインスクール協会の鈴木昭平先生をご紹介いただきましたことから、鈴木先生とのご縁が始まりました。
――禅道会でも、発達障害の生徒が増えているのですか?
小沢最近、私たち空手道禅道会の指導員はもとより、他団体の先生方からも“発達障害の児童が増えてきた”という相談を受けるようになってきています。
どこの道場でも、道場生は綺麗に整列し、号令に合わせて気合いを出して基本稽古とか移動稽古、型などをやりますが、その中にリズムや呼吸が合わない、ちょっと目を離すと違う所を見て“ぼーっ”としながら稽古をしている児童が何人かに一人の割合でいます。多分どこの道場でも先生に怒られていると思うのですが(笑)。
また違う視点としては、私たちディヤーナ国際学園の相談の中で、昔は非行少年とか不登校が多かったのですが、だんだんと発達障害の児童の割合が多くなってきたんです。ウチの場合は発達障害に加えて家庭内暴力というのがついてくるのでとても厄介です。
しかし、いずれの生徒にしても発達障害というものが幼年期のすれ違いを作ったり、本人と社会との関係性を難しいものにしてきた、という経緯に内在する怒りが家庭内で爆発するというケースが多かったと思うのです。
当学園に入寮し、集団生活、カウンセリングなどでその子たちのトラウマ自体は改善されたとしても、本人の発達障害に由来する、認知やコミュニケーション障害などが炙り出されてきて、発達障害は如何ともし難いと思った時に、もう私たちにも生徒に対し情が厚くなっておりますから、この子が社会に出て行くのはとても不憫である、どう考えたらいいんだろうと壁にぶつかっておりました。
そんな話の中でウチの指導者や他団体の空手の先生に聞いてみると、ある一定のパーセンテージで発達障害のお子さんがいると、どう接して良いのかわからない。稽古にならなくなってしまう、稽古の足を引っ張ってしまうので他の子に悪影響を与えてしまう、と皆さん苦しんでおられるそうです。しかし、それを理由に保護者に辞めてもらいたいとは言えませんよね。多くの空手指導者の方が持っている悩みだと思うのですが、そんな話を聞いていく内に「ああ、発達障害というのは相当社会的な問題になっているんだ」と経験的に気がついていって、この3~4年は発達障害を知る旅だったような気がします。
そんな中で鈴木先生とご面識を得たので「私はとてもラッキーだな」と。

感情のコントロール

小沢隆・禅道会代表とエジソン・アインシュタインスクール協会の代表理事・鈴木昭平氏
小沢隆・禅道会代表とエジソン・アインシュタインスクール協会の代表理事・鈴木昭平氏

鈴木皆さんは発達障害ということで困った子供だと思っているんですよ。確かに現時点においては自己コントロールができなくて扱い方がわからないというケースがほとんどです。文部科学省も、実は今から3年くらい前に新聞で公表しました。小学校と中学校の普通級に6.5%発達障害児がいる、つまり不安定な子がいる。それが今はもっと増えていると思うんです。30人クラスには二人、40人クラスには三人いるわけですから授業にはならないでしょう。
しかし、そういうお子さんを見ていると五感が敏感なことに気づきました。理性が使えない分、感性を使って生きてきたわけですから、五感が研ぎ澄まされているんですよ。その五感が過剰反応してコントロールできないから困っているわけで、そこをなんとかできれば実は素晴らしい才能なんです。なぜかというと、敏感だということは脳の一部が過剰に発達しているわけです。過剰に発達した脳とは、天才脳だとも言えます。しかしその脳が使えない、なぜなら我慢と自信が足りないからです。ふつうのお子さんでも社会化するためには我慢と自信が必要なんですけど、そういう敏感な子供は人一倍必要なんですよ。それを親が躾けてこなかったんです。家庭教育で、幼児期にその我慢と自信をつけさせてこなかったんですね。どちらかといえば、我慢と自信をダメにしてきたんです。そこで今、倍返しされてるわけですよ。そこをもう一回作り直すということですね。
それから本人の頭の中、脳の中に、我慢と自信の回路を強化してあげる。そうすれば行動が変わってくるんです。人間は脳の回路でもって動いているわけで、コンピュータと同じ、ロボットと一緒なんです。その回路を積極的に作ってあげるということを、ご両親がもう一度取り組んでいただくのと、指導者の方がそこのポイントを知って指導してくれれば改善の可能性は明らかに大きくなります。

教育のプロも学びに

指導方法についての具体的な意見交換の中で、お互いの提言にさらに学び合う
指導方法についての具体的な意見交換の中で、お互いの提言にさらに学び合う

鈴木今、学校の先生たちが私の所に学びに来ているんです、支援学校、支援学級の先生たちが。先日は専門コースに小学校の校長先生が来ました。そういう時代になっちゃっています。
小沢プロの教育者が学びに来ているわけですね。
鈴木今の教育学部ではそういう発達障害児を改善するためのプログラムは無いんです。なぜかというと、今の教育は18世紀のストレス教育がベースになっている。つまり強い兵隊を、軍隊を作るための訓練のプログラムがベースになっているんです。それでは敏感な子供たちは対応できないんです。
私たちがやっているのは大脳生理学に沿ったプログラム、それを開発したんです。そこで先程のT教授との連携が出たわけですね。その脳に着目した教育をやることがこれからの21世紀の教育であり、そういったお子さんたちを指導する場合もそこを避けては通れない。
一番問題なのは、学校の先生たちですら児童の脳が何グラムあるのか知らないということですね。それで教育をしているんですよ。そういう知識がない。焦点がずれてるんですよ。その焦点をずらさないで取り組みをしていって指導をすれば効果は大きくなる、それを知ってもらいたいんです。

父兄にも指導を

小沢私の方で鈴木先生のやり方に関心を持ったのは、基本的にお父さんお母さんに対する教育なんですね。道場に来ている時間というのは基本的に短いし、問題が起きた後、学園に預かるというのはかなり大きな負担になるわけですね。確かに脳がまだ発達過程で一番児童に接するのはお父さんお母さんだ、ということを考えてみた時に、障害が無くても何かある子というのは3歳までのトラウマが潜伏していて思春期に爆発する、というケースが多いんです。そこで、ご両親の啓蒙活動をなんとかしなきゃと思いつつも、実際そうすることまで行けていない、と悩んでいたわけですね。そういう時に鈴木先生がすでにご両親、特にお母さんのカウンセリングを主体にお仕事をされていると聞いて、これは当然効果が高いだろうなと思ったわけですね。その内容の中に、スポーツマンや空手家のメンタルトレーニングに役立つことも多々あるとお聞きして、強い関心を持ったんです。これは学びのチャンスだな、と。プロスポーツのメンタルトレーニングに役立つ、ということもなんらかの効果があるんじゃなかろうか、それなら読者の方にも役立つのではないかと思った次第です。

現代の空手道場の主役は少年部

禅道会に限らず、現在の空手道場運営は少年部を中心に行われている、といっても過言ではない
禅道会に限らず、現在の空手道場運営は少年部を中心に行われている、といっても過言ではない

小沢現在はどこも少年部の道場運営が主体となっているところが多いわけですから、児童の教育の割合が高くなってきているわけで、空手の指導者も知らないといけません。学校の先生に言ってもらちがあかないから、空手の先生に相談、というケースって意外と多いんです。
鈴木私たちのノウハウをどうんどん使っていただければありがたいです。
小沢ウチも小学校後半ぐらいから思春期にかけて、という子が一番多いですので、経験から培ったノウハウは持っています。まぁ、ウチは心に傷がついている子はかなり改善するんですけど、発達障害の子はTPOが読めないことがあるので極力オーバーに褒めて「すごいなーおまえ!!」とわかるように情感を高める必要があるので、またそれを繰り返さないとダメだ、という基本的なことは体験上学びました。
鈴木我慢と自信を付けさせるということが大切なんですが、自信をつけさせるということは、自分を信じる心を強めるってことなんですよ。自信ですから自分を信じることですが、それができなかった。それは親に自信をつけさせてもらえなかったからです。自分を信じられれば世の中は渡っていけるんですよ。それをサポートするにはどうしたら良いかということですが、自信の信という字を見て欲しいのですけど、にんべんに言葉と書くんです。だから、人の言葉で変わるんです。
じゃぁこの人は誰かってことなんですが、信頼している人。小さい時はお父さんお母さんなんですけど、大きくなっちゃうとお父さんお母さんは憎しみの対象になっているから無理なんです。その場合に、道場の先生とか信頼している人が一言かけてあげる。私たちは自信をつけさせてあげるために気絶するほど褒めるという(笑)、メソッドを持っているんです。ちょっとでもできたら気絶するほど褒めるんです。
具体的には60の項目があって、それを言ってもらうんです。親にそれを訓練してもらうんです。その取り組みをすると、必ず少しでも良くなりますから、取り組みの項目も全部データで取って指導するんです。その過程で、もうちょっとできそうだという項目がまた見つかりますから、それをさらに取り組みしてもらうんです。
この時二つハードルがあるんですけど、一つは冷静にやること。冷静でないと60個は言えないですから。もう一つは、真剣にやること。真剣でないと子供は反応しないんです。子供は親の真剣さに反応するんです。例えば「○○ちゃん、スゴイ! さすが! あっぱれ! やればできる! スゴイ! 素晴らしい! 日本一! 世界一! できる! すごい、素晴らしい」と、ものすごいスピードで褒めていくと子供は唖然としてそこから変わるんですよ。びっくりするくらい褒められると、変わるんです。そういうのをいくらでも見てきました。一番信頼しているお母さんから褒められる時に変わる子供が多いです。信頼関係が無ければダメです。かえって恐怖を感じますから。それができるためには、本当の心の指導者になる、ということが大事だと思うんです。その辺りを近場で指導者になっている方がしっかりと押さえてくれるといいんじゃないかな。そして、子供たちの自分の心、マインドをコントロールできるようになればやっていけるんです。そのためには指導者の方も自分のマインドをちゃんと感じ取り、コントロールできるようにしていくことが大切です。そのマインドの簡単な作り方があるんです。

<次号に続く>

鈴木昭平 プロフィール

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