実践的な中国武術として「影無く 形無く 剛柔無し 通背拳は神拳なり」と詠われた通背拳(通臂拳)。
名前の由来は左右の腕が一本につながった伝説の動物「通臂猿猴」からとられており、通背拳(通臂拳)の使い手の打撃が、あたかも腕が伸びたかのように見えることから、その名がつけられた。
今月号は格闘技界の智の巨人・小沢隆氏(禅道会代表)が村松希実彦氏(通背拳一修会代表)から背骨の力を両腕に伝える基礎功について話を聞いた。
参考動画/https://karate7.com
- 小沢
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通背拳(つうはいけん)について教えてくれますか?
- 村松
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私が学ぶ門派の正式名は「少祁派五行通背拳」で、別名を通臂拳とも言います。
中国東北地方(河北省、遼寧省など)を中心に伝えられてきました。
正確な始まりは知りません。私が知っていることは、通背拳を伝承した祁信(清朝末期・浙江省)が子供の祁太昌に伝え、祁太昌は家伝の「五行の理」にて創意工夫を凝らしたことです。
現在、祁信の伝えたものを「老祁派」、祁太昌の伝えたものを「少祁派」と区別されています。
その後、中興の祖「燕北大侠」こと修剣痴により大幅な改革を受け、勢・法・理の三部の拳譜にまとめ上げられ、五行通背挙となりました
現在は①祁家(祁氏)通背拳②白猿通背拳③劈掛通背拳なとが主流となっています。
※中国語では「背」と「臂」の発音は似ていることから同意とされます。
- 小沢
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動きの特徴は?
- 村松
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通背拳は猿の動作から考案されました。
腕を鞭のようにし長く柔らかく遠くまで放ち、目にも止まらぬ速い打撃が特徴です。
迅速で多様な手技を有していますが、腿法や接近戦における打撃や関節技や投げ技もあります。
さらに各種の武器、気功的練功もあります。
- 小沢
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通背拳を拝見し、腕の力を極力抜いて、鞭のように用いる様を見て、私が得意とする背手による打撃と似ていると感じました。
また腕を鞭と化すための練功法「揺身披卦(ようしんひか)」も今年8~9月にイランへ共に行った際に見せてもらいましたが、一見腕を回すだけのように見えて、細かな体幹を操る操作法であり、腕の力を極力抜いて、鞭のように用いる私独自の鍛錬法との数似点であると感じました。
さらに両掌を交互に前に伸ばす「伸肩法」も見ましたが、肩部を柔らかくすることで、脱力を伴った速さと、重い打撃力を練る練習法でしたね。
- 村松
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伸肩法で大事な事は、直線で真っ直ぐ手を出して真っ直ぐに引く事を脳にインプットすることです。何故なら人は円運動はなんとなくできますが、直線はやり込まなければ身につかないからです。
- 小沢
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イランでは基本的な速度や体幹を磨く基本功の他に、五行掌、「率・拍・穿・劈・鑚」という単式練習や、三環炮という対人練などの相対的な強さを磨く練習法も見せていただきましたが、まずは腕を鞭と化すための練習法「揺身披卦」について教えてくれますか? 読者のために、なるべく専門用語は使わずにポイントを教えてください。
- 村松
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基本功「揺身披卦」は軟身法の一つです。中心から外に広がる動きであり、ポイントは次の通りです。
①胸骨を入れて落とし、股関節で立つ。
②背骨の回転に合わせて、両腕を振る(写真A1~2参照)。
③顔をまっすぐにしたまま②を行う(写真B1~2参照)。
④前後に両手を振る(写真C1~3参照)。
⑤③と④の動きを合わせる(写真D1~4参照)。これが揺身披卦。
腰をしっかりと回さないと、腕に身体が振り回されてしまいます。肩を腕の一部と考え、身体の奥から回してください。
腕が巻きつくときに少し戻す(止める)動作も練習しておきましょう(写真E1~2参照)。
初心者は背骨につながった一本のロープをスナップを用いて動かすイメージで行ってみてください。
こうした練習を通じて、手に重さを持つことができます。
止まった瞬間に毛細血管まで血が流れて、じわーんとする感覚があります。
横回転だけでなく、腰を動かして、両腕を縦回転。これを小さくしていけば、突きになります。
突きのポイントは、手は心口(鳩尾)から出て、心口を離れず。肘は肋骨から離れないという点です。
こうすれば、中心を守りながら、打つことができます。
さらに「揺身披卦」で養った動きを生かせば距離がなくても打てます(写真F1~2参照)。
ちなみに「活腕」という練習があります(写真G1~4参照逆回転もある)。腕とは手首を意味します。手首の柔軟性を高める事はもちろん、気血意を手(末端)に集めることを目的としています。
- 小沢
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通背拳はまず打撃、接触したら投や極に変化していくようですが、それも神道会との類似点です。通背拳の技は総合格闘技にも応用できる部分が多いですね。
- 村松
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相手との状況に合わせて変化し、前出の揺身披卦の動きもが打・投・極に変化していきます。揺身披卦の動きを応用した技をお見せしましょう。
《1》
相手のジャブに対して、時計回りの回転。左手で受け右手で腹部を叩く(写真H1~3参照)
すぐさま時計と逆回転で相手の顔面を右手で打つ(写真H4~5参照)。
相手にガードされていても腕は鞭である。変化して左手に巻き付き、絡めて崩す(写真H6~7参照)。
有利なポジションに移動しつつ、時計回りの回転。左手で頭部を打つ(写真H8参照)。
放り投げていくイメージで足運びと合わせれば、無限に続けることができる(写真H9~10参照)。
《2》
流水のごとく足運びと鞭を組み合わせ、変化(写真I1~9参照)。放り投げる動きでは、肘の力を抜く。体の中で繋がる感覚は快適なので大切にする。
- 小沢
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本日はありがとうございました。特に基本功「揺身披卦」は村松先生が「これをやっていると四十肩にならない(笑)」と言うように健康に対しても効果があると実感しました。
- 村松
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小沢代表には様々な面でお世話になっております。本日お見せした通背拳は氷山の一角。また機会をいただければ紹介させてください。来年は禅道会のRF大会には弟子を出場させたいと考えています。
村松希実彦(むらまつ・きみひこ)
1961年4月3日神奈川県相模原市出身。縁あって周師父に師事。2005年通背拳を研究する武術団体としてー修会を立ち上げ代表となる。2008年国際五行通背拳協会を設立し副会長に就任。国際五行通背拳協会副会長。通背拳ー修会代表。少祁派五行通背拳第七代伝人。
対談を終えて
今回、村松先生の通背拳の動きの知見を得て感じたのは、体幹部を中心として末端部まで流れるような鞭のような動き、これは形状は違っても、禅道会空手でも同じ、いわゆる機能快、カラダが心地良いと感じる自然体の健康的な動きなわけです。
では、通背拳がリアルな格闘の場でそれを体現できるのか? 通背拳に限らず、それぞれの護身術や格闘技持つ技術体系や、理念にはそれぞれのお図柄や地域性、歴史が体現されていますが、その良さを発揮できる競技体系が整っていなければ、その個性を体現できません。
私どものRF武道空手の大会は、技術体系、尊敬を持って文化を交流できる場です。なるべく平等に表現し、試合い、相互尊重できるルールですから、今までもフルコンタクト空手はもちろん、硬式空手、伝統派空手、日本拳法、少林寺拳法の選手がそれぞれの技術で出場しています。また、台湾から中国武術の選手が出場したり、今までも、レスリング、柔道、ブラジリアン柔術、サンボ、ムエタイ、など様々な文化のバックボーンを持った選手が活躍しています。
道着を着て(柔道衣や柔術衣も公式なものなら認められています)、礼法を重んじて試合うことで、最大限互いの文化を尊重し、真の切磁琢磨しながら交流できます。
今回通背拳の村松先生の教室で、禅道会空手クラスをスタートするというのも、そういった異文化交流の理念に共感してくださったからだと思います。来年20回記念大会となる、全日本RF武道空手道選手権では、今まで培った文化交流の総決算となるような大会になることを願っています。そのような考えをお持ちの団体様はRF大会への参加をお待ちしております。